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「ギンガムチェックと塩漬けライム」書評 作品の新たな一面知る海外文学ガイド

評者: 青山七恵 / 朝⽇新聞掲載:2025年06月07日
ギンガムチェックと塩漬けライム: 翻訳家が読み解く海外文学の名作 著者:鴻巣 友季子 出版社:NHK出版 ジャンル:外国文学研究

ISBN: 9784140819876
発売⽇: 2025/04/18
サイズ: 13×18.8cm/260p

「ギンガムチェックと塩漬けライム」 [著]鴻巣友季子

 不朽の少女小説からAIロボットが語る現代小説まで、英米文学の名作を広く紹介する良質な読書ガイド。優しい語り口で勘所を押さえた解説は、海外文学ビギナーの頼れる道標となることはもちろん、現役愛読者を懐かしい面々が集う同窓会へ招き入れてくれる。
 ページを繰れば「久しぶり!」と思わずハイタッチしたくなる作品が次々現れるものの、その未知の顔に驚くこともしきり。たとえばO・ヘンリーの「最後のひと葉」。センチメンタルなストーリーに引っ張られ主人公が女性二人だったことさえ忘れていたが、本書の解説に触れて再読すると、なるほど確かに、ここには女性の自立のありかたと偏見に抗(あらが)う連帯についての力強い提示がある。『ライ麦畑でつかまえて』のホールデン少年はなぜあんなぐだぐだ口調で喋(しゃべ)るのか、『ロミオとジュリエット』を悲劇にしたのは誰なのか。見過ごしていた作品の新たな一面を知れば、同窓会だけでは物足りない。どの作品とも今すぐ次に会う約束を取りつけ、一対一でじっくり付きあい直したくなった。