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「わたし、わかんない」ほか子どもにおススメの3冊 答えなんか見つからなくても

「わたし、わかんない」

 「わからない」と口にすることが多いため、学校で「わかんないちゃん」と揶揄(やゆ)されている小学4年生の中(なか)。いやだいやだと思う気持ちにがんじがらめにされているように感じ、ぎゅうぎゅうに押さえつけられるようで学校に行くのが嫌だ。「まじめじゃなくなりたい」という夢を持つ、自分とは正反対の一つ上の幼馴染(おさななじみ)センは自分の中から出てくるいやだと言う声に耳を傾けられる中をうらやましいという。

 答えを出すことが大切なのではなく、わからないという結論に至るまでに考え抜いたその過程自体がどれほど価値があることかを、自己と向き合う中の姿を通じて考えさせられる。

 子供だけでなく、別居をはじめた両親や母の会社の悩める同僚など、大人だって正解に辿(たど)り着けず、ぐるぐるしている。

 「正しそうにみえること」が正しい訳ではない。納得いくまで考え、自分で選び取った道が自分の人生をつくる。正解って誰のため? 答えなんか見つからなくてもいい。自分の心の声にじっと向き合い、自分の意志で居場所を選択する中の決断に、拍手を送りたい。(丸善丸の内本店児童書担当 兼森理恵さん)

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 岩瀬成子(じょうこ)著、講談社、1540円、小学校高学年から

「ぶたのしっぽ」

 中学2年生の豪太郎は野球部で活躍しているが、大好きな編みぐるみ作りの趣味については男らしくないと思い、友だちにも隠していた。ところが職場体験で一緒になった篠田に不登校の理由を聞いて、その考えが変わった。

 篠田は登校するよりも心の病で苦しむ母親の介護をする方が大切だと思い、自らが不登校を選んだという。“らしさ”とか“ふつう”ということに縛られず、多様な考えを受け入れるとはどういうことか新たな気づきを与えてくれる篠田がかっこいい。(ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん)

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 海緒裕(うみおゆう)作、嶽(だけ)まいこ絵、講談社、1540円、小学校高学年から

「きんつぎ」

 ウサギと鳥がお茶の時間。ところがカップにひびが入り、日常の事物は砕け、鳥は飛び去ります。後を追うウサギは暗い森をさまよい、深海へ。黒い背景に幻想的なモチーフが浮かび上がる心象風景。巻末の詩のほか本編には文字がなく、読者に解釈を委ねます。失望して帰ったウサギは、壊れた欠片(かけら)を拾い、ゆっくり直していきます。

 日本にルーツをもつペルー出身の作家。継ぎ目を隠さず新たな美しさを付加する日本伝統の修復技法「金継ぎ」になぞらえ、元には戻らない喪失感と希望の再生に寄り添います。(絵本評論家・作家 広松由希子さん)

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 イッサ・ワタナベ作、柴田元幸詩訳、世界文化社、2420円、6歳から=朝日新聞2025年5月31日掲載